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中小企業の事業承継において重要な自社株式の評価について

自社株式とは? どうやって評価する?

自社株式とは同族会社のオーナー社長やその一族等が所有する株式を指します。

例えば、元々の額面が 500 円であっても利益を出すことで 700 円に上がったり、赤字が続けば 300 円に下がったりします。

ただし、中小企業の株式評価では、赤字が継続すると株式の評価額が上がる場合もあります。そうしたカラクリも含めて、今回は非上場である中小企業の自社株式の評価について説明をします。

同族株主に該当するか、しないかによって評価方法が異なる

非上場の株式は、国税庁が作成している「財産評価基本通達」の「取引相場のない株式等の評価」に基づいて評価することになります。

この評価方法では、大きく分けて非上場の株式を取得する株主が、
・同族株主か
・それ以外の株主か
によって評価方法が異なってきます。

会社経営への影響度や支配力の違いにより、同じ株式でも価値が異なると考えられるからです。

同族株主とは? 同族関係者とは?

同族株主とは、株主の 1 人及びその同族関係者の有する議決権割合の合計数が、その議決権総数の 30%以上である場合におけるその株主及びその同族関係者のことを指します。

ただし、 前記の同族株主が複数ある場合、その一つが 50%超である場合には、50%超のグループのみが同族株主となります。

また同族関係者とは、親族(配偶者、6 親等以内の血族、3 親等以内の姻族)、特殊関係のある個人及び特殊関係にある会社を指します。

評価方法は「原則的評価方式」と「配当還元方式」の2つがある

支配権を有する同族株主が所有している株式は、会社の業績や資産内容等を反映した「原則的評価方式」により評価します。

一方、同族株主等以外や同族株主等の少数株主等が取得する株式は、「配当還元方式」により評価します。

一般的に配当還元方式による評価の方が株価は低くなる傾向にあります。

「原則的評価方式」の中にも、類似業種比準価額方式と純資産価額方式の 2 種類がある

「原則的評価方式」の中にも、類似業種比準価額方式と純資産価額方式の 2 種類あります。

まずは、類似業種比準価額方式を見ていきます。

類似業種比準価額方式とは

A:国税庁が発表している「類似業種比準価額計算上の業種目及び業種目別株価等」から評価会社の業種目を判定する。2 以上の業種目を兼業している場合は、取引金額の割合が 50%を超える業種を評価会社の業種とする。
類似業種の株価は課税時期の属する月以前 3 か月間の各月平均株価、前年平均株価、前 2 年間の平均株価のうち最も低い株価を採用

B:課税時期の属する年の類似業種の 1 株当たりの配当金額
Ⓑ:評価会社の 1 株当たりの配当金額 直前期末以前 2 年間の配当金額の合計×1/2÷発行済株式数

C:課税時期の属する年の類似業種の 1 株当たりの年利益金額
Ⓒ:評価会社の 1 株当たりの利益金額
直前期のみで計算した 1 株当たりの利益金額と直前期末以前 2 年間の 1 株当たりの利益金額の合計×1/2 のうち低い方を選択可能

D:課税時期の属する年の類似業種の 1 株当たりの純資産価額(帳簿価額で計算)
Ⓓ:評価会社の 1 株当たりの純資産価額(帳簿価額で計算)
(直前期末における資本金等+利益積立金額)÷発行済株式数


類似業種比準価額方式は 1 株当たりの配当(Ⓑ)、利益(Ⓒ)、純資産(Ⓓ)を按分して算出。純資産価額方式は相続税評価額に評価替えをして含み損益を株価に反映します。

会社の直前期の決算で、配当や利益、純資産が減少している場合、株価が下がり、株価対策を進める機会になる可能性があります。

純資産価額方式とは

純資産価額方式は、類似業種比準価額方式と異なり、帳簿価額でなく相続税評価額により評価替えを行うものです。

自社株式の評価を下げる方法

会社の規模によって、類似業種比準価額と純資産価額の2つの評価方式を上記の割合で計算し、「原則的評価方式」による株価が確定します。

一般的に中小企業の場合は、類似業種比準価額が純資産価額より低い価額になります。

そのため株価を下げたい場合には、類似業種の掛け率が大きい大きな会社規模で判定されるようにすると有利となります。

自社株式の評価額を引き下げる方法① 判定される会社規模の区分を変える

会社規模は上記の表から判定します。

上記の表の見方を解説します。

①と②の判定基準から下位区分を選択、その結果と③の判定基準から上位区分を選択し判定します。

(例)サービス業で純資産価額が 3 億円、従業員数が 10 名、年間の取引金額が 4.5 億円であれば会社規模は中会社(中)になります。
取引金額が 5 億円になると、中会社(大)と判定されるようになり、低い価額である類似業種比準価額の掛け率が多い計算式が利用できるようになります。

よって、大きな会社規模に判定されたこのタイミングで株式を移動すれば、自社株式を低い評価でより多く移動しやすくなります。

自社株式の評価額を引き下げる方法② 評価の各要素を下げる

評価の各要素を下げる方法として2つあります。

1.類似業種比準方式を引き下げる方法
類似業種比準価額は配当、利益、簿価純資産によって評価します。

①配当金額の減少もしくは配当を行わないことにより株価を引き下げます。
株式評価の対象となる配当金は経常的な配当に限られるため、記念配当、特別配当などの名目で行えば、評価の算定から除外ができます。

②例えば役員退職金の支払いを行って利益を引き下げます。
経営者が退任もしくは相談役等に就任して会社の経営第一線から退けば、生前退職金の支給が可能です。同族法人の経営者の退職金は多額になることも多く、当該期の利益が大幅に減額されれば、当該期の翌期の株価は低下します。

③帳簿価額が取引価額より高い資産の売却や不良債権の貸倒れ計上等を行います。こうした資産を売却すれば、簿価純資産だけでなく利益も減少します。



2.純資産価額方式を引き下げる方法
純資産価額方式は帳簿価額を相続税評価額に評価替えをして評価します。

例えば土地を相続税評価額で評価する際は、一般的に取引価額の 8 割程度の評価額になるよう評価基準が定められています。そのため、通常の取引価額での土地の購入は純資産価額の引き下げとなります。

また、その土地に賃貸物件などを購入した場合、土地は貸家建付地としてさらに約15%減額されます。建物は相続税評価額では固定資産税評価額に評価替えを行い、借家であれば借家権としてさらに 30%減額されます。

ただし、課税時期以前 3 年以内に取得した土地や家屋については、相続税評価額ではなく課税時期における「通常の取引価額」に相当する金額で評価するため注意が必要です。3 年経過後に相続税評価額での評価が可能となり、通常であれば純資産価額の減少が見込めます。

類似業種比準価額方式の「比準要素数1の会社」の該当に注意

自社株式の評価では多くの会社は原則的評価方式を採用しますが、会社の資産の保有状況や営業状況が通常と異なる場合には、評価方法が変わります。
ここではその一例として「比準要素数1の会社」についてご説明します。

「比準要素数1の会社」とは、類似業種比準価額方式で評価する 3 つの比準要素「配当」、「利益」、「簿価純資産」のうち、直前期末の比準要素のいずれか2つがゼロであり、かつ直前々期末の比準要素のいずれか2つ以上がゼロである会社となります。

比準要素数1の会社の株式は、会社の規模にかかわらず「類似業種比準価額×25%+純資産価額×75%」(もしくは純資産価額)により評価します。

そのため小会社より純資産価額のウエイトが大きくなり、一般的に株価が高く算出されます。相続対策や事業承継対策で株式の移動を考えている場合には事前に検討が必要です。

配当をしておらず、2 期連続で利益がマイナスになるような場合、簿価純資産が十分な会社であれば配当を出したり、場合によっては含み益の多い資産を売却して利益を出すことによって、比準要素数1の会社を回避することができます。

同族株主以外や支配権を持たない少数株主等は配当還元方式という方法で評価

※Ⓐは課税時期の直前期末以前 2 年間の平均配当金額を、直前期末における発行株式数で除した金額
年配当金額は一般的な配当に限定し、特別配当や記念配当は除く
Ⓐがゼロまたは 2 円 50 銭未満だった場合、年配当金額は 2 円 50 銭として計算

※Ⓑは直前期末時点での資本金や出資金、資本準備金などの合計額を 50 円で除した金額
Ⓑが 50 円以外の場合は、資本金等の金額を 50 円で除して算出した株数を用いる

配当還元方式は評価会社の配当金額から評価額を計算する例外的な評価方法です。原則的評価方式に比べ、配当還元方式により算出した金額の方が一般的に株価は低くなります。

まとめ

以上、非上場の自社株式の評価方法と事業承継をする際に有利になる自社株評価を下げる方法について記載してきました。

なかなか複雑で、1度読んだだけでは、もしかしたら何回読んでもなかなか理解できない内容なのかなと思っております。

一番理解が進むのは、自社の株価評価を実際に計算してみることなのかなと考えています。

弊社では、この複雑な相続・贈与についてより専門性を持ってご対応したいとの思いから、資産税という専門部署を設けております。自己株式の生前贈与等の事業承継対策についても多くの案件に携わっております。

業績の良い会社ほど、後継者への株の移動が悩ましい問題だと思います。
対策がこれからという方がいらっしゃいましたら、ぜひ気軽にご相談ください。