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遺言は 想いを伝える 最後の手段

自分が死んだ後に子どもがもめることがないように遺言を残しておきたいと相談がありました。自分の財産がどの位あるのか調べたことがないとのことでしたので、相続税のシミュレーションを行い、財産と相続税額の全体像を把握してから遺言の作成をお手伝いしました。

まずは財産と相続税額の把握から

相談者はお母様。
その相続人は子ども3人で長男、長女、次女という家族でした。

財産は不動産も金融資産も多くありました。
不動産は長男の自宅の土地、次女の自宅の土地が母名義でした。
建物は各々名義の自宅が建っています。

また、お母様は現在長男の自宅に同居しておりますが、以前亡夫と住んでいたマンションも所有しておりました。

金融資産は、証券会社に株や投資信託があります。預貯金も数千万円ありました。

シミュレーションで相続税額を計算してみた結果、お母様の所有している預貯金の範囲内で納税できることがわかりました。

試算をした結果、納税資金対策をする必要がないとわかり、まずは一安心していただくことができました。

不動産の遺言の検討

財産と相続税額の把握のあと、お母様が考えた遺言の話に進みました。

誰に何を相続させたいのか、財産目録から一つ一つ確認を行っていきます。

まずは不動産。
長男と次女の自宅の土地は母親名義です。
そのまま二人が相続すればよいとおっしゃいました。

次に夫婦で住んでいたマンションをどうするかを検討しました。
長男、長女、次女にそれぞれ子どもがいるので、お母様は孫の誰かが住むかもしれないし、住んでほしいという思いがあるようでした。ただ、孫はまだ小さく、将来がどうなるかわかりません。

また長女は不動産を取得しておりませんが、長女の夫が自宅を建てましたので特に不動産は必要としていませんでした。

迷っていたのでマンションの話は一旦保留にして金融資産の話を進めることにしました。

金融資産の遺言の検討

金融資産ついて、お母様からまず話があったのは不動産を相続しない長女についてでした。
不動産を相続させる他の2人と同じように財産をあげたいという思いから、長女は不動産を取得しないかわりにそれなりの金融資産を相続させたいとのことでした。

そのため、まず預貯金から相続税の総額を除き、実際に残る預貯金を把握しました。

そして残る預貯金から長女にどれほど相続させるか検討を加えました。

長男と次女の自宅の土地の評価額と同等程度の預貯金を長女に相続させたいという思いもありました。幸いにも残る預貯金で、長男、次女の不動産の評価額と同等程度の金融資産を相続させることはできそうでした。

最後に少し残る預貯金と証券会社に預けている株や投資信託、その他の財産についての検討です。

これらはすべて同居の長男に渡したいとお考えでした。
マンションについても孫に住んでもらいたいが、現状では決めきれないので最終的に長男に任せることになりました。

これでマンションを除き大きな財産についてはどのように相続させるかが固まりました。

全体のバランスの検討

遺言の案ができたところで改めて財産と遺言の内容の確認を行いました。
ここで1点だけ確認のためにお話したことがあります。

長女については不動産を取得し相続税を納税するだけの預貯金を相続してもらいますが、手元に残る預貯金はありません。その点を考慮しなくてもよいかということです。

お母様は長女にお金が残らないのはかわいそうだと思うし、心残りだとおっしゃいました。

そこでこちらからご提案をしました。
長男が相続する予定の証券会社の取引の中に近々満期を迎える国債があるのを確認しておりました。その国債が満期を迎えた後に、その資金で生命保険を契約するというご提案です。

生命保険の内容は、長女が受取人の死亡保険と長男が受取人の死亡保険です。そうすることにより長女にも死亡保険金が入りますし、長男も死亡保険金にしておくことで相続税の特例の「死亡保険金の非課税限度額」の利用ができて節税にもなり、財産を減らすことなく長女にお金を残すことができるようになります。

お母様はマンションを長男に任せ、次女にもいくらかお金を残せる方法を聞いてとても安心している様子でした。

数日再検討したのち、お母様はこの案で遺言を作成することに決めました。
そして公証役場で公正証書遺言を作成する手続きに入りました。

遺言の種類と手続き

遺言には大きく公正証書遺言と自筆遺言の二つがあります。
今回の相談者であるお母様には公正証書遺言の作成をお勧めしました。

公正証書遺言の利点は、公証人という専門家によって作成されるため、記載の不備によって遺言が無効になるおそれがありません。

一方で自筆遺言の場合、自分で作成するために、記載の不備などにより法律的に無効になってしまったりすることがあります。また自筆遺言の場合は、それを発見した場合に裁判所において検認してもらう必要があります。今は自筆遺言書を法務局に預かってもらえる制度が始まったのでそれを利用できますが、預けていない場合には誰かが破棄をする可能性もあります。

これらの理由から、公正証書遺言をお勧めしました。

遺言がある場合とない場合では、遺産の相続手続きにおいても違いが出ます。

遺言がある場合は遺言執行者が定められているケースが多いです。
そして相続手続きをその遺言執行者が行うことができます。預貯金の解約などもスムーズに行えます。

遺言がない場合、原則は相続人全員で遺産分割協議書を作成し、誰がどの財産を相続するか決定したうえで、相続手続きを行うことになります。預貯金については民法が改正され、遺産分割協議成立前でも一定額引き出すことができるようになりましたが、相続手続き自体は遺言があるケースよりタイミングも遅くなり煩雑になります。

遺言は想いを伝える最後の手段

数年後、お母様が亡くなりました。

相続人の3名は全員がお母様の遺言に従い相続されました。
相続手続きもスムーズに行うことができ、遺言があって本当によかったと相続人の皆様はおしゃっていました。

実際の相続で遺言があるケースはまだ半分もないと感じます。

ですが、遺言があることによって残される相続人が円滑に・円満に相続をすることができます。
よく「自分が死んだらあとはみんなに任せる」と言う方がいらっしゃいますが、ぜひ、自分が亡くなる前の最後の仕事だと思って遺言を作成することをお勧めします。

遺言の作成といっても、ただ書くだけでは100%とは言えません。

今回のケースのようにまず自分の財産、相続税額の確認をすることが重要と考えます。
相続税がかかるのであれば、その納税資金をどのように用意してあげるかも検討しなければなりません。ゆえに、まずは一番最初に相続税額のシミュレーションができる税理士に相談することを勧めております。

相続は事前に対策をすることがとても重要です。遺言を作ろうと思っている方はぜひ早めに早めにご相談ください。現時点で遺言は必要ないと思っている方も是非一度ご相談ください。見えていない問題点があるかもしれません。

木村美都子税理士事務所では皆様の相続に対するご不安を解消するお手伝いをしております。一緒に相続のことを考えましょう。