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配偶者が全てを相続するのが得とは限りません

相続については、配偶者がすべて相続すればいいと考えている方はけっこう多くいらっしゃいます。しかし、次に起こる相続のことを考慮せずにそのまま相続すると思わぬ損をしてしまうこともあります。今回はそのあたりの注意点について記載しました。

相続の概要と一次相続の計算

父が亡くなったと息子が相談にみえました。
相続のことはよくわからないが、「すべて母に相続することでいいので、それでお任せします」と話がありました。

しかし、色々な検討をしないで進めるわけにもいきませんので、遺産分割協議など重要なポイントはしっかりお話をさせていただき検討をお願いしました。

実際、配偶者がすべて相続すれば良いと考えている方は、一度立ち止まってしっかり考える必要があることが多いです。

具体的な数字で確認していきます。

財産は自宅の土地と金融資産です。
土地で2,000万円、金融資産で5,000万円の財産は7,000万円です。
相続人は母と相談者である息子の2人です。
家屋は息子名義でそこに3人が同居していました。

相続税の計算をしてみると、
基礎控除は、3,000万円+600万円×2人=4,200万円
となります。

財産の7,000万円から基礎控除額4,200万円を引くと、2,800万円が相続税の対象の課税遺産価額となります。
課税遺産価額を法定相続分で相続したとして計算すると次のようになります。

母:2,800万円×2分の1=1,400万円×10%=140万円
子:2,800万円×2分の1=1,400万円×10%=140万円

合計280万円の相続税となります。
この相続税を財産の取得割合で按分し、各人の相続税となります。

息子からはすべて母が相続することでよいとの話がありました。

その場合、母に280万円の相続税となりますが、配偶者控除が適用され相続税の納税額は0となります。配偶者控除は、財産の1億6,000万円もしくは法定相続分相当額のどちらか多い金額まで財産を取得しても、それに係る相続税はかからないという制度です。

相続税の負担が軽くなるので、被相続人の配偶者にすべて相続させることでいいとおっしゃる方がこれまでも多くいらっしゃいました。

しかし、その相続した配偶者に相続が発生した場合の二次相続についても検討を加えると、分割の仕方が変わるケースも多々ありました。

二次相続の計算

財産を相続した母に相続が起こった場合の相続税の計算をしますと次のようになります。

基礎控除は、3,000万円+600万円×1人=3,600万円となります。

配偶者本人固有の財産が金融資産で1,000万円あります。
仮に父の財産7,000万円を配偶者が相続し、そのまま亡くなったとした場合、
配偶者の財産の額は8,000万円となります。

財産の8,000万円から基礎控除額3,600万円を引くと、4,400万円が課税遺産価額となります。
課税遺産価額を法定相続分で相続したとして計算します。

子:4,400万円×1=4,400万円×20%-200万=680万円の相続税となります。
父の相続の時の相続税額より納税額が多くなっております。

それはなぜでしょう。

2回目の相続において変わる数字、それは「相続人の数」です。

基礎控除の計算において、相続人の数が減りますので当然控除額も減ります。
相続税は法定相続分で相続したとして計算します。

相続人が何人かいれば、一人当たりの計算の価額が低くなり、それによって決まる適用相続税率も低くなる傾向にありますが、二次相続は相続人の数が減るので一人当たりの計算の価額は高くなり、適用される相続税率も高くなる可能性があります。

実際、今回も適用相続税率は高くなっています。

父の相続税を納めた方が、二次相続を考えると相続税は低いという結果になります。

この違いを説明したところ、ではどうすればよいかとの話になりました。

息子としては、母にこれからの生活も不自由なく過ごしてほしいという想いがあり、すべて母が相続すれば良いと考えていたようです。ただ、次の母の時の相続税の申告で納税が出るのであれば、それは当然無くなる方が良いということでした。

そのため、こちらからは一部を母が相続することを提案いたしました。

母の固有の財産と今回相続する財産の合計が、次の母の相続税の基礎控除以下になることを前提に話をしました。

母の固有の財産は金融資産で1,000万円です。
母の相続の時の基礎控除額は3,600万円です。

残り2,600万円まで相続しても、次の母の相続税はかからないと思われます。
生活のなかで資産が増減することも考え、土地または預貯金の2,000万円分を相続してもらうことで検討を開始しました。

相続する財産の違いによる相続税額への影響

続いて、母が相続する財産について、土地の2,000万円がよいのか、預貯金2,000万円がよいのかについて考えました。

まず土地で考えてみます。

そのまま相続するのであれば土地も預貯金も同じ2,000万円相当の財産ですので、どちらを相続しても結果は同じです。

しかし、亡くなった父が住んでいた土地を相続人が相続する場合、要件はありますが小規模宅地等の特例の「特定居住用宅地等」が使えます。

こちらは土地の330㎡まで80%評価を下げることができます。今回は母も子も生計を一にしているためどちらも適用できます。

小規模宅地等の特例を適用すると土地の評価額が2,000万円から400万円まで下がります。
そうすることで財産額7,000万円から5,400万円に下がり、相続税総額は280万円から120万円になります。

母が土地を相続し小規模宅地等の特例を適用する場合

母の相続財産 400万円 (取得割合7%)
子の相続財産 5,000万円(取得割合93%)

となります。相続税の負担はその財産の取得割合で按分します。
母:120万円×7%=8.4万円 → 配偶者控除で0
子:120万円×93%=111.6万円
総額111.6万円の納税となります。

 
子が土地を相続し小規模宅地等の特例を適用する場合(母は預貯金2,000万円を相続)

母の相続財産 2,000万円(取得割合37%)
子の相続財産 3,400万円(取得割合63%)

となります。相続税の負担はその財産の取得割合で按分します。
母:120万円×37%=44.4万円→配偶者控除で0
子:120万円×63%=75.6万円
総額75.6万円の納税となります。

小規模宅地等の特例の場合は注意が必要

小規模宅地等の特例が絡む場合は、土地2,000万円と預貯金2,000万円のどちらを相続したらよいかは上記のような検討が必要です。

母が土地を相続した場合は取得する財産の割合が低くなります。
相続税の納税額が低くなり、その低い納税額が配偶者控除で0となります。

母が預貯金を相続した場合は、取得する財産の割合が土地に比べ高くなります。
相続税の納税額が高くなり、その高い納税額が配偶者控除で0となります。

つまり、小規模宅地等の特例は被相続人の配偶者で適用するのではなく、他の相続人が適用できるなら、そちらで適用すれば相続税が減少することがあるということです。

今回母は土地を相続せず、預貯金2,000万円を相続し、子に土地と残りの預貯金を相続してもらうことにしました。

そうすることによって相続税の負担も低くなり、次の相続税も0ということになります。
また預貯金を母に相続してもらうことにより、今後の生活もお金のことを気にせず過ごしていただけます。

最後に、土地の評価が小規模宅地等の特例により2,000万円から400万円に評価が下がったなら、下がった分、さらに預貯金を母に相続してもらえば一番相続税が低く抑えられるのでは、と考える方もいるかも知れません。

小規模宅地等の特例は、相続税の申告をすることが要件になっております。
そのため次の相続の際も申告をする必要があります。

今回の条件として、次の母の相続税の申告がないようにすることがありました。
そのため、相続税が一番低くなる可能性についても説明したうえで上記のような結果になっております。

相続の相談はまず税理士に

ご相談を受けておりますと、被相続人の配偶者がすべてを相続することでいいです、とお話される方が本当に多い印象です。

相続財産が基礎控除以下の方はそれでいい場合もあります。

また、財産が多い方でも配偶者に相続してもらい、その後相続対策で財産額を基礎控除額以下にすることができるのであれば問題ありませんが、実際はそうなるとも限りません。

土地と建物の名義を変更してから相談に来られる方もいます。

そうなりますと今回のような検討はできなくなるわけです。

相続税の計算については税理士しかできませんし、上記のように計算はけっこう複雑です。
納税の有利不利を検討した上で、土地や建物の名義の変更をした良いケースもございます。
いつも啓蒙しているのですが、相続については相続が発生する前にぜひともご相談ください。

仮に既に相続が発生していたとするならば、その場合もまず税理士事務所に相談することをおすすめします。上記にも記載しましたが、相続税の計算ができるのは税理士だけだからです。

その後の名義変更手続き等は提携している司法書士を、遺産分割協議でもめそうな場合は提携している弁護士をご紹介いたしますのでご安心ください。

木村美都子税理士事務所では、相続・贈与について対応する専門の部署を設け相談対応をしております。少しでも相続について気になることがありましたらお気軽にご連絡ください。