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会社経営者が円満相続をする方法

母が亡くなったと長男が相談に来られました。兄弟3人が相続人です。母は以前に会社を経営していたので相続財産には会社の株式も含まれていました。今回は非常に円満に遺産分割協議がまとまった事例をご紹介します。

財産の確認と分割案の想定

母の財産は自宅の土地と建物、もう1カ所の土地、預貯金がありました。
また会社を経営されていたため、その会社の株式を所有していました。

計算したところ相続税が発生します。

母は3人の息子のうち長男と同居していました。
会社は母が経営していましたが現在は長男が継いでいます。
もう1カ所の土地は二男がそこに家を建て住んでいます。

このことから、ある程度遺産分割案が次のようになるかなと想定されました。

自宅の土地と建物 →長男
会社の株式 →長男
別の土地 →二男
預貯金 →?

預貯金の分割の仕方をどうするかが論点になりそうです。

預貯金のみを3分の1ずつ相続するのであればすぐ分割協議は終わります。
しかし3人が財産全体をそれぞれ3分の1の割合で相続するとなると、預貯金の分割方法の話し合いが必要となります。

納税資金の検討

長男は不動産と会社の株式で3分の1を超えます。
二男は土地と少しの預貯金、三男は預貯金のみ相続となります。

相続人に相続税を納税するだけの預貯金があればよいですが、一般的には相続する預貯金から相続税を納税する方が多いです。3分の1ずつ相続するとなると長男は預貯金を相続できません。そのため納税資金に苦慮することになります。

そうなると長男は、自宅の土地を売却するか、会社の株を売却するなどをして納税資金を準備する必要が出てきます。
しかし自宅は居住しているので売却は現実的ではありません。

そうなると会社の株式の売却が検討されました。

自己株式の売却と税金

会社の株式は非上場株式で親族と持ち合っています。第三者に売却するということは考えにくく、一般的には会社にその株式を買い取ってもらう「自己株式の売却」で対応します。

自己株式の売却については、会社に株式を買い取れるだけの資金があるかどうかを検討しなければなりません。また、株主の議決権割合が変わりますので、意見の対立する株主がいる場合などは会社の運営に支障をきたす可能性もありますので慎重に検討しなければなりません。

相続税の納税ために法人に株式を売却する話をしておりますが、売却した株式の売却益に対しては所得税がかかります。
通常上場株式などの売買は「譲渡所得」となり他の所得は関係なく、売却益に対して20.315%(所得税と住民税)の税率で計算します。

しかし自己株式の買い取りの場合は、みなし配当と考えられ「配当所得」となります。
配当所得は給与などの所得と合算しますので、売却した年の所得が高額になり、その税率も高く納税額が高額になります。

そこで、相続で取得した株式を会社に売却した場合の特例があります。
特例の詳細は国税庁のHPをご覧ください(下記にリンクがあります)。
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1477.htm

「相続税の負担がある方」という要件はありますが、この特例を利用すると売却益が「配当所得」ではなく通常の売買と同様の「譲渡所得」となります。そのため相続に関係した株式の場合はこちらの適用を視野に入れて検討することができます。今回もこの適用を頭に入れ、納税資金の確保をどうするか検討していきました。

相続で取得した株式を会社に売却した場合の特例(国税庁ホームページ)

実際の分割協議

長男は、会社の株式を会社に自己株式で取得してもらうのは負担が大きいのでできれば避けたい。
無理を言うが納税分の預貯金を相続させてもらいたい、という意向でした。

二男は自宅がある土地とその相続税を納めるだけの預貯金があれば十分との意向でした。そして長男に対して、自宅の維持や母から継いだ会社の運営をしてもらっており、大変なのはわかっているため兄に預貯金を相続してもらっても良いと考えておりました。

三男はすでに自分で自宅など所有しており、家を出て自由に生活をさせてもらっているので、預貯金を相続させてもらえるだけでもありがたい。家業を継いでいる長男に預貯金を相続してもらいたいと考えておりました。

皆で分割協議を行った結果、預貯金を長男5:二男3:三男2の割合で相続することに決まりました。

法定相続分で相続するとなったら…という検討も必要ないほど円満に話がまとまりました。

まとめ

今回のようにもめることなく遺産分割が決まる相続も多くあります。
相続人がお互いの状況を考えて遺産分割の話し合いをすれば、スムーズに分割案がまとまります。

今回は納税資金を確保できたため問題ありませんでしたが、実際に会社の株式を売却して資金を準備するという方もいらっしゃいます。その場合、10ヶ月の申告期限の間に会社のことまで検討しなければならず、スケジュールは非常にタイトになり、ストレスを伴うこともあります。

弊社ではそうならないように、早めに相続シミュレーションを行っておくことをおすすめしています。

生前に相続シミュレーションを行うことにより、自分の財産を誰にどう相続するか、それによる相続税の納税資金は準備できるか、ということを早めに検討していくことができます。

さらにこの準備の段階から相続人を交えて話をしていくことで、もめない相続の実現が可能となります。
まだ先の話だからと思わずに、早めに準備の一歩を踏み出してみませんか。

木村美都子税理士事務所ではいつでもご相談をお待ちしております。
一緒に円満な相続に向けて考えていきましょう。