BLOG ブログ

貸家の贈与・貸家の負担付贈与の事例とその注意点

預貯金や保険の贈与のほかに、所得の移転や相続税対策を目的として貸家を贈与することがあります。今回はまずその貸家贈与について。さらに貸家の収入と一緒に貸家の借入金の返済も併せて贈与するケースである「負担付贈与」について、事例でイメージを持ってもらうと共に、それぞれの注意点について同時に見ていきます。

貸家贈与の事例

【前提条件】
貸家の評価額:70 万円(木造平屋 築後 40 年)
借入金:なし
収入:月 5 万円×12=年間 60 万円
預り敷金:10 万円

暦年課税制度を利用して貸家を贈与します。
贈与財産 110 万円まで贈与税はかかりません。

親に所得が集中している場合、貸家を子に移転することで所得の一部を分散し、所得税の累進課税を軽減できます。また、その後の親の不動産収入を減らすことで、相続財産の増加も抑えられるようになります。

収入の移転に土地の贈与は必要ありませんが注意点もありますので、それを次で見ていきます。

貸家建付地評価のおける注意点

① 貸家の敷金は贈与財産に加算
この事例では、贈与金額は 70 万円(貸家の評価額)+10 万円(敷金)=80 万円

② 贈与後に貸家の入居者が入れ替わった場合、親の土地の評価は自用地評価に
親の土地の更地評価が 1,000 万円(自用地評価)の場合、贈与前は貸家に利用されているため、相続税評価は 15%減の 850 万円(貸家建付地評価)となります(借地権割合 50%の場合)。

贈与後は、貸家の所有者である子に親の土地を無償で貸し付ける(使用貸借契約)状態になりますが、貸家建付地評価は維持されます。

ただし、贈与前の入居者が退去して新たな入居者になった場合、貸家建付地評価は適用できなくなり、親の土地の評価は 1,000 万円(自用地評価)となります。

つまり、貸家の入居者が贈与前から継続して居住しているときに限り、贈与後も親の土地の評価は貸家建付地評価という低い金額で評価できるということになるので、この点には注意が必要です。

貸家の収入と共に貸家の借入金の返済も併せて贈与する「負担付贈与」の事例と注意点

【前提条件】
貸家は建築後 20 年経過
貸家の評価額:2,400 万円(時価 3,600 万円)
預り敷金:100 万円
収入:月 40 万円×12=年間 480 万円
借入金残高:3,000 万円

貸家を贈与する場合は上記同様、
①貸家の敷金は贈与財産に加算
②贈与後に貸家の入居者が入れ替わった場合、親の土地の評価は自用地評価
となります。

さらに、
③「負担付贈与」では、贈与財産は「時価評価」することと定められており、借入金は債務の引き受けになるため財産から差し引きます。

今回の事例で計算すると、
3,600 万円+100 万円-3,000 万円=700 万円 が贈与金額となります。

贈与税の申告は、暦年課税制度、相続時精算課税制度のどちらも選択が可能です。

「時価評価」の具体的な方法までは定められていなく、個々の事例に応じた合理的な金額で評価することが必要となってきます。

税務申告上、「時価評価」を算出するには多方面からの検討が必要になりますので、個別の案件についてはご相談いただければと思います。

まとめ

今回は、貸家贈与の事例と、貸家を借入金の返済も併せて贈与するケースである「負担付贈与」について見てきました。

これらは上手に活用できれば、若い世代に早めに所得を移しつつ、その後は相続財産を増やさないようにできる有効な対策になるかと思います。

ただ、どんな相続対策もそうなのですが、木を見て森を見ずになってはいけないと考えます。

目的が達成される最適な案を検討していくことが一番大切なことだと思いますので、くれぐれも手法や節税の額だけにとらわれないようにご注意ください。