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相続財産が確定して遺産分割に合意していても相続税申告に間に合わない場合がある?

相続人間で遺産分割協議に合意したにも関わらず、相続税申告までに終了できないケースが極まれにあります。今回はそのケースを見ていくことで、相続税申告や相続対策で注意すべき点についてお伝えしていきます。

一般的な相続税申告までの流れと必要な作業

相続税の申告が必要な場合、亡くなってから10か月以内に相続税の申告をするとともに、通常現金で納付します。

10か月というと時間的な余裕は十分にあると思われるかもしれません。

しかし、この期間に相続財産の確認作業、財産評価の確定、遺産分割協議、預貯金の解約手続きや税額納付の準備、相続税の申告と納付までを行うため、意外とあっという間に時間が過ぎていってしまいます。

相続財産の種類が土地なのか、建物なのか、有価証券なのか、はたまた法人経営の自社株式なのかといった点、その量、さらに相続人が財産を把握している状況、各相続人の住所地、相続人のご関係など、様々な事情が絡みますので、それぞれの家庭の事情によって、遺産分割協議の進み方や申告までにかかる時間が大幅に異なってきます。

今回の事例

農家の夫が亡くなりました(被相続人)。

相続人は4人。
妻と同居の長男、長女と二女は嫁いでいます。

相続財産は大部分が不動産であり、自宅の他、田畑、山林、原野に加えてアパート3棟を所有しています。

土地家屋が約13,000万円、預貯金他が約2,000万円、アパートローンが約5,000万円あり、相続財産の純資産額は約1億円でした。

アパートの一部が都市計画道路の予定地になっている土地がありました。

都市計画道路予定地の区域内にある宅地は、その地区区分や容積率、その宅地に占める都市計画道路予定地分の地積割合によって、評価の減額ができます。その規定に沿った評価減を行いました。

また自宅の敷地の一部に上記とは別のアパートが1棟ありました。不動産の評価は利用区分毎に行うため、アパートの敷地面積を自宅と区分して評価しました。

今回の遺産分割協議の内容

相続人4人で遺産分割協議を行ったところ、同居している長男が不動産を含め財産の多くを取得し、妻は預貯金の一部を取得することになりました。

嫁いでいる娘二人からは田の一部を相続したいと強い希望がありました。

田は二筆あり、南北に細長い土地になっています。
北側が約600㎡、南側が約900㎡あり、北側の標高が少し高いため、4枚の田に区分されています。

遺産分割協議では、北側の2枚の田を同居の長男が取得し、南側の2枚を娘二人がそれぞれ1枚ずつ相続するという内容でした。

土地の図面は現況の田の利用形態の通りに分けられていないため、希望する遺産分割協議の通り相続するには、「分筆登記」が必要になりました。

分筆登記とは

土地の図面は公図や地積測量図で確認できます。
どちらの図面も該当の土地の地番が分かれば誰でも法務局で取得することができます。

現在ある土地の地番の一つ一つに所有者がいますが、その地番を分けることを分筆と言います。

分筆登記は司法書士に依頼できますが、実際に現地で測量や確認などの作業は司法書士から依頼された土地家屋調査士が行います。

一般的には次のような流れになります。
①土地の境界確定測量の実施 
道路の確定や隣地の民有地の方の確認など、測量する土地の周り全ての境界確定測量を行います。

②確定測量の終了後、分筆ラインを検討 
現地で分割ラインへ境界標の設置を行います。

③境界標の設置後、「申請書」「地積測量図」の作成を行います。

④委任状→登記申請 
土地所有者の委任状を提出し、登記申請します。

⑤登記申請後、2週間程度で分筆登記が完了します。

滞りなく進めば、約2か月程度で完了します。

県との境界確定作業が必要に

前述の通り、相続税の申告は亡くなってから10か月以内のため、分筆にかかる時間が2か月程度であっても、申告までの進め方に影響が出てきます。

今回の事例については、南北に長い田の東側に小さな河川がありました。

田に取水するための水路ですが、この河川の管理は県が行っています。
そのため、県との境界確定作業が必要になりました。

また、その用水路の公図が現況と大きく異なっていたため、測量確定のための県との協議に大幅な時間がかかったようです。

その結果、相続税の申告期限から4か月以上を経過して分筆登記が完了しました。

600㎡と900㎡の登記簿上の土地は測量の結果、地積の合計が約100㎡増加し、約400㎡毎の4筆の土地に分筆登記されました。

前述の通り、相続税の申告は亡くなってから10か月以内に行います。
10か月以内に遺産分割が確定しない場合、相続財産は未分割のまま相続税の申告を行います。

相続税では配偶者控除の特例や小規模宅地等の特例など、税額の軽減ができる特例が多くありますが、その多くは取得者の条件があります。

遺産分割が確定しない場合、こうした特例を適用しないまま、被相続人の財産にかかる相続税額を法定相続分に応じて財産を取得したものとみなし、相続税の申告と納付をします。

また、申告書に「申告期限3年以内の分割見込書」を添付し、未分割の理由と今後の見込みについて記載します。

今回の事例では、分筆の確定しない田2筆のみを未分割とし、その他の財産は遺産分割が確定したものとして申告しています。分筆の確定後、あらためて相続税の申告書を再提出することになりました。

まとめ

税務申告は申告・納付ともどちらか一方が遅れれば、無申告加算税や延滞税がかかります。

相続税はその本税が大きくなることも多く、申告や納付を簡単に遅らせることができません。

ほとんどのお客様が相続税の申告をするのは多くても2回程度ですから、相続の流れを良くわかっていらっしゃらないお客様の中には、申告期限の1~2か月前になってからご依頼いただく場合もけっこうあったりします。相続税の申告の有無がわからなくてもまずは一度早めにご相談いただくことをおすすめしております。

当事務所ではこのような事例を防ぐために、通常8ヶ月での申告を目標としています。相続の発生からご依頼いただけるまでの期間にもよりますが、4か月の準確定申告の後、約5か月で財産評価の確定、約6か月で遺産分割の確定、約7か月で預貯金等の解約手続きと納税資金の確保、約8ヶ月での相続税の申告を標準としてやっております。

上記のように遺産分割時に所有者が別々になることが分かっていれば、相続開始前に分筆登記を進めます。分筆の費用は測量の面積にもよりますが、数10万円~100万円程度かかる場合もあります。事前に費用を支払えば相続財産と相続税の減額にもなり相続対策にもなりますので、そういう意味でもぜひ早めにご相談いただければと思っております。