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相続人全員が満足する遺産分割協議をするには

父が亡くなったと相談に来られたお客様。相続に対する相続人それぞれの考え方が異なっていたため遺産分割協議に時間がかかりました。相続税の申告という限られた時間の中で、それぞれの想いを一つにするのは大変です。悔やむ結果にならないようにするには生前からの準備がとても大切です。

まずは財産の把握から

相談に来られたのは長男でした。
母と長男、長女、二女で相続をすることになりました。
母は高齢で介護施設に入所していました。

まずはいつものように相続財産の確認から始めました。

不動産は自宅の土地と建物、企業に貸している土地がありました。
金融資産をしっかり残されており数千万円ありました。
財産の合計は約1億5,000万円、相続税は1,300万円ほどになることがわかりました。

続いて遺産分割協議に

金融資産をしっかり残されていたので相続税の納税の心配はありませんでした。
家族にそのお話をすると、全員に安心していただけました。

続いて家族全員で遺産分割協議に入りました。

誰が何を相続するか決めるために財産の細かい説明をしていくと、長女と二女より
「今日初めて財産の内容を知ったのでまだ何も考えられません。少し時間が欲しいです。」
とのお話がありました。

結婚し実家から出ていると、父の財産について詳細を知らないのは無理もないことです。
しばらく期間をあけて改めて話し合いをする段取りになりました。
その間家族で話す機会があれば話しておいてくださいとお伝えしました。

その後一か月を過ぎても連絡がなかったため長男に電話をして進捗の確認をしたところ、誰からも一切連絡は無くそのままになっているとのことでした。
そのため、再度家族全員で集まっていただき話し合いをすることにしました。

改めて仕切り直しで、こちらから財産の内容の確認と、遺産分割をする際に参考にしていただきたい相続税の計算の仕方をお伝えました。

相続税の計算の仕方

相続税を計算するには、まず基礎控除の額を把握する必要があります。
基礎控除の額=3,000万円+600万円×法定相続人の数
この範囲に財産がおさまっている場合はそもそも相続税がかかりません。

相続財産が基礎控除額を超えた場合は超えた額に対して相続税が課税されます。

相続財産から基礎控除額を除いた金額を、相続人が法定相続分で相続したとして全体の相続税を算出します。

そして、その算出された相続税を、各相続人が財産を相続した割合でそれぞれ負担をするという計算になっております。

また、配偶者がいる場合で相続税がかかる方は、配偶者が相続する財産については法定相続割合もしくは1億6,000万円までは、配偶者控除という特例により相続税はかかりません。

これらをふまえてこちらからまず相続税を一番低く抑える分割の方法を提案しました。

相続税が低くなる分割の方法

母自身の固有の財産はほとんどないとのことでしたので、相続税が低くなる案として提示した内容は次の通りです。

今回の相続(1次相続)で財産の1億5,000万のうち母に4,800万円程度まで相続してもらい、残りを子ども達で相続するという案です。

母が亡くなった時の相続(2次相続)の基礎控除は3,000万円+600万円×3人=4,800万円となります。

母が残す財産が4,800万円以内におさまっていれば、2次相続の際にそもそも相続税はかからないことになります。

2次相続の際の相続税をあらかじめ計算して、1次相続での分割方法を決める考え方です。

1次相続においては、母が相続する財産の相続税は先に説明した配偶者控除があるためかからず、子が相続する財産にのみ相続税がかかってきます。

具体的に数字を当てはめて見ていくと、次のようになります。
1億5,000万円から基礎控除額5,400万円を引くと課税遺産総額は9,600万円となります。
それをまず母に4,800万円、残りの4,800万円を子3人で3分の1ずつ分けます。

計算式にすると、
母(2分の1)= 4,800万円 × 税率(20%-200万円)= 760万円
子(6分の1)= 1,600万円 × 税率(15%-50万円)= 190万円×3人
相続税は合計で1,330万円となる計算となります。

この相続税の合計額を誰が納税するかは、実際に相続を受ける額によって計算されます。
相続財産32%を受け取る母は相続税も32%負担する計算となります。
具体的には、母が4,800万円(相続財産の32%)を相続すると、母の相続税は425万(相続税1,330万円の32%)ほどになりますが、実際には配偶者控除が適用できるため相続税はかからず0円ですみます。

子3人の相続税は相続財産の割合が68%なので、相続税の負担も68%で905万円ほどになります。

1次相続で支払う相続税額は配偶者の負担は0円で子が負担する905万円だけとなります。

その後母が亡くなったとしても2次相続は母の財産を基礎控除内におさめているため、相続税はかかりません。

結果、1次と2次の相続税は総合計は905万円となります。

相談者の長男は、相続税が低くなるほうがよいと考えていたようで、この分割方法でいきたいと話していました。

相続人の想いも大切に

一方で、長女と次女は違った考えをお持ちでした。

両親が生活をやりくりして残した財産なので、母にすべて相続してもらい余生を安心して暮らしてほしいという考えでした。

このような場合、相続税がそもそもかからない人は配偶者がすべて相続することでも問題ありませんが、相続税がかかってくる人の場合は注意が必要です。配偶者がすべて相続した後にその方が亡くなった時の2次相続で、相続税額が1次相続より高くなってしまうことがあるからです。2次相続は1次相続より法定相続人の数が1人減りますので、基礎控除の額が下がることによります。また配偶者控除はもう対象者がいませんので利用することができなくなるからです。

長男は税金のことを考慮し話をされていましたが、長女と二女は母親に対する想いが強く、話は平行線をたどりました。

申告期限が近づき、最後には長男もそういうことならすべて母親に相続してもらおうとの結論になりました。

長女と次女の想いを優先させると相続税は次のようになります。

1次相続では、すべて母が財産を相続し配偶者控除により相続税はかかりません。
2次相続では、1億5,000万円から基礎控除額4,800万円を引くと1億200万円となり、
子(3分の1)=3,400万円 × 税率(20%-200万円)  = 480万円×3人
相続税額は合計で1,440万円となります。

相続税が一番低くなるように相続する場合の相続税と、長女と次女の想いを優先させる場合の相続税の差は500万円程ありました。

財産の分け方によってこれだけの差が出ました。

相続税の申告までたった10か月 生前からの準備が大切

数年後、母が亡くなりました。
2次相続では、やはり母にすべて相続させたことで納税負担がかかる結果になりました。
長男は、兄弟姉妹でもっとじっくり話し合ってうまくできなかったかなと少し悔やんでいる様子でした。

再度確認しておいていただきたいことは、相続税の申告がある人は相続が発生してから遺産分割協議を行い相続税の申告をするまでの期限は10ヶ月しかないということです。

亡くなってから財産を調べ、その資料を集めて財産目録を作るだけでも時間がかかります。遺産分割協議にかけられる時間は実際には10ヶ月よりもっと短く、意見が合致しないまま期限が迫るということが起きかねません。

今回、長女と二女は最初からすべて母親に相続させたいという気持ちをもって分割協議をしていたようでした。自分達の想いの通りに母を見送ることができて二人は兄に感謝したようでした。

しかし、もし生前に相談にこられて、事前に相続財産の内容を把握し、相続税シミュレーションを行い、1次相続と2次相続についても家族全員でじっくり検討する時間があったとしたならば、長女と次女の考え方にも変化が起き、母への想いと納税額のバランスをもっと取れた相続が可能だったかもしれません。

今回の事例のように、財産の相続の仕方で納税額には大きな差が出ます。
話し合いの時間が短ければ、どうしても期限に追われ感情的な話し合いになりやすくなってしまいます。じっくり話し合いをする時間が取れたら、想いのみならず、税金のことまでも冷静に考慮することができるかもしれません。

いつもお伝えしていますが、相続は生前からの準備が非常に大切です。
私どもはこのようなブログで事例をお伝えし、啓蒙活動も頑張っているつもりですが、被相続人が亡くなってからの相談ですとどうしてもご提案できる案は減っていってしまいます。

したがいまして、相続について少しでも気になっている方は、相続が起こる前の対策の段階から早め早めにご相談していただけると、より良い相続に一緒にしていけると考えております。

もちろん、相続が起こってからのご相談も承っております。その場合もぜひ早めにご相談いただければと思います。話し合いの期間が多く持てたり、色々な対策を検討できる時間が多く持てるようになりますので。