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親が相続人になる場合に検討したいこと

独身で子どももいない兄弟姉妹が亡くなったと相談されることがあります。
その相続人が親の場合、財産は親に相続され、その相続された財産をもとにまたその親の相続が発生します。このように連続して相続が起こる場合は事前に検討しておきたいことがあります。今回はその内容をご紹介します。

親に相続した場合

兄が亡くなったので相続の相談をしたいと妹2人、弟2人から相談がありました。
兄は配偶者も子どももおりません。

堅実な方でしたので財産はご自身の預貯金、有価証券があります。
他にも父から相続した不動産をいくつか所有していました。

相続税は発生します。

妹からのご相談でしたので、相続人は妹2人と弟2人かと思っていましたが、母がご健在とのことでした。そうなりますと相続人は兄弟姉妹ではなく母になります。

相続人が母1人となると相続税がどれ位になるのか計算してみましょう。

財産の総額は8,600万円ほど。
相続税の基礎控除は3,000万円+600万円×1人=3,600万円となります。
8,600万円-3,600万円=5,000万円となり5,000万円に課税されます。
相続税は5,000万円×20%-200万(相続税率)で800万円となります。

普通に相続すると上記のようになりますが、当事務所から1つ別の考え方をお伝えしました。

その内容は、母が「相続放棄」をするという考え方です。

相続放棄は裁判所で手続きを行います。相続放棄をすることにより、母は相続人ではないということになります。今回、母が相続人でなくなると、次の相続人は兄弟姉妹になります。

そうした場合、相続税がどれ位になるのかを計算してみます。

相続放棄をした場合の相続税額

相続税の基礎控除は3,000万円+600万円×4人=5,400万円となります。
8,600万円-5,400万円=3,200万円に課税されます。

相続税の計算は、まず法定相続分で財産を取得したとして相続税の総額を計算します。
算出された相続税を、相続人各人が財産を取得した割合で按分し納税することになります。

3,200万円×4分の1(法定相続分)=800万円
800万円×10%(相続税率)=80万円
80万円×4人=320万円

相続税の総額は320万円となります。
ただし、ここで注意が1つあります。

兄弟姉妹が相続人の場合、相続税は2割加算しなければなりませんので、下記の相続税が加算されます。
320万円×20%=64万円

結果として、320万円+64万円=384万円が相続税の総額となります。

母のみが相続人の場合は800万円、兄弟姉妹が相続人の場合は384万円となり、兄弟姉妹が相続する方が納税する相続税は416万円少なくなります。

相続放棄で検討すべき事項

相続税が低くなる方がもちろん皆嬉しいのですが、相続放棄をすることの良い点と、しっかりと検討しておくべき点の両面が出てきますので、それを見ていきます。

【良い点】
・納税する相続税が低くなる
これは先程計算した通りです。

・相続手続きが1回で終わる
母が相続し相続税を納税します。何年かの後に母が亡くなった場合、再度相続税の計算を行う必要があります。相続税の申告は書類等を集めるだけでも大変な労力となります。それを1回で終わらせることができるのであれば負担が少なく済みます。

【検討する必要のある点】
・母が相続放棄を望まれるかどうか
当然のことですが相続放棄をするのは母ですから、母の意思がなければなりません。

・期日は間に合うかどうか
相続放棄は亡くなったことを知ってから3か月以内に行う必要があります。そのため相続放棄した場合の相続税の確認が必要であればすぐに行わないといけません。また、兄弟姉妹が相続人になるということは、相続財産の遺産分割協議も行わないといけません。相続税の申告は亡くなった翌日から10か月以内が期限となりますので、それまでに兄弟姉妹で話し合いをしなければなりません。

相続放棄について、知らず知らずのうちにやってしまうことに対しての注意点を補足しておきます。相続人が親1人の場合、分割協議書など必要がないため、相続手続きがスムーズに行えます。何気なく財産を相続してしまった場合、相続放棄をすること自体が困難になってしまいますのでこの点については注意が必要です。

相次相続控除の検討

もうひとつ、相次相続控除についても触れておきます。

母が相続し、その後母の相続が10年以内に発生した場合には、相次相続控除という制度を適用することができます。

相次相続控除を簡単に説明すると、前回の相続から10年以内に相続が発生した場合、前回の相続税のうち、1年につき10%の割合で逓減した後の金額を今回の相続税額から控除できるというものです。

一定の要件のもと、1回目の相続税を2回目の相続税から控除することが可能になるのです。相続放棄をしない場合でも、相続税の負担が相次相続控除を適用することで軽くなることもあります。

結局、相続放棄をしたら良いのか、しない方が良いのか?

このように説明をすると相続放棄をした方が良いのか、しない方が良いのか、結局どうしたら良いの?と思われることでしょう。

これを言ってしまったら元も子もないかもですが、つまりは簡単に決めることはできないということです。

今回のケースでは母は相続放棄をして兄弟姉妹が相続するという意思表示をしてくれました。兄弟姉妹の関係性も良く、遺産分割協議もスムーズに行うことができ、無事申告もすることができました。

また母もお元気でしたのでまだまだ長生きされることでしょう。そうなりますと母に相続が発生しても相次相続控除の効果は薄くなっていきます。

そうであるならば、相続放棄をしてよかったという結論になります。

兄弟姉妹の関係が良くない場合はどうでしょう。遺産分割がまとまらず、余計に相続が複雑になってしまうということが起こりえます。その場合には母が相続し、母自身が次の相続のこと考えてあげるほうが良いかも知れません。

以上のように相続税を比較すると低くなるからということだけで相続放棄をするのではなく、相続全体を考慮し進めていかないと家族の関係性に影響が出かねませんので注意が必要です。

まずは相続税の試算をすることで税負担を確認し、さらには税金以外の気になる点も考慮し、様々な場合を想定して相続の方向性を考えることが大切になってきます。

まとめ

「事前の対策が重要」といつもお伝えしているとおり、事前に相続のことを想定しておくだけで、いざ相続が発生した時の対処方法と冷静さに雲泥の差が出てきます。

相続人が親になる可能性があるという人の場合は、親が財産を相続したらどうなるのか、親が相続放棄をして兄弟姉妹が財産を相続したらどうなるか、ということをぜひとも早めに考えておいていただきたいです。

木村美都子税理士事務所ではこのような相続放棄や相次相続などのご相談にも乗っております。

気になった時が相談時だと思っています。
どうぞお気軽にご連絡ください。