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農家の相続で知っておくべきこととは? 相続税の支払いが難しい場合でも納税猶予利用判断は慎重に

今回は、不動産対策の効果、土地の評価の仕方、地積の大きな土地の評価の仕方、無道路地の評価、特例等をフル活用した効果的な遺産分割協議の仕方、農地の納税猶予の注意点等を事例を交えながら紹介していきます。

納税資金が足りなくなる? ご相談いただいた相続人と相続財産の状況

ある農家の男性が亡くなりました(被相続人A)。

相続人は5人。
配偶者
同居の長男
県外に住む二男
同じ市内に住む長女の子
養子縁組をしていた長男の妻

農家のため相続財産の大部分は土地であり、相続財産の評価額は5億円を超えています。

ただし債務もあるため、相続税の申告では相続財産からこの債務を差し引いた純資産額を基に税額を算出します。

債務を差し引いた相続税の見込額が約7,000万円。
一方で納税資金となる預貯金は約2,000万円ほど。

このままでは相続税の支払い金額が5,000万円ほど足りません。

農家の場合、こうしたケースは多くみられます。
農地や宅地としての土地が財産の大半を占める一方、預貯金は相対的に少ないため、納税資金の確保に苦労することが多いです。

これまでに何か相続税対策はしてきた? 不動産対策の効果とは

同居の長男夫妻はこれまでに何も対策をしてこなかったわけではありませんでした。

農地の一部を宅地に変えてアパート経営を行っており、被相続人Aさん所有のアパートは10棟あり、そのうち4棟はAさんが亡くなる1年前に完成していました。

農家等で不動産所有が多い場合、相続税対策としてアパート経営による土地活用が多く使われます。

土地は更地だと「自用地」として相続税評価額の減額はありませんが、アパートを建築すると「貸家建付地」とされ、「自用地」評価額から借地権割合×借家権割合×賃貸割合の金額が減額されるからです。
借地権が50%、借家権が30%、賃貸割合が100%の場合、50%×30%×100%=15%の減額となります。

さらに建築したアパートの建築費用が債務として財産から差し引かれます。

財産として計上されるアパートの相続税評価額も固定資産税で評価されることになり、評価額が一般的には建築費用の50~60%程度になります。

建築したアパートも「貸家」として借家権割合×賃貸割合の減額が受けられます。このケースの場合、建物の固定資産税評価額からさらに30%の減額になります。

このように、これらを組み合わせると大きな相続税対策になるため、アパート経営による節税対策が多く使われているわけです。

土地の評価は現地確認が大切

私どもが相続税の申告を受託する場合、不動産については必ず現地確認を徹底的にしたうえで土地の評価を行います。机上ではなく、実際に現地を確認することで見えてくることが多いからです。

土地の場所や利用方法により、倍率方式と路線価方式のうち指定された評価方法を利用

相続税の申告では、毎年7月1日に発表される「(財産評価基準書)路線価図・評価倍率表」に基づいて土地の評価を行います。

倍率方式を指定されている土地は固定資産税評価額を基に評価倍率表に指定される倍率を乗ずることで評価をします。

路線価方式を指定されている場合は、「路線価図」に指定されている1㎡あたりの土地の価額に地積を掛け合わせた金額を基にさらに地区区分、間口距離、奥行距離に加えた土地の形状で補正し、さらに借地権割合や個別事情を考慮して評価します。

今回の評価対象の農地は、宅地等が建築可能な市街化区域内の土地であったため、上記の評価に加えてさらに農地から宅地に転用する場合にかかる宅地造成費を控除しました。

宅地造成費には整地費、伐採・伐根費、地盤改良費、土盛費、土留費などがあります。

該当の地域は市内でも海抜の低い地域にあり、大きな道路に面した農地の一部は道路より1mも低くなっていました。

現地で簡易測量を行い、整地費や土盛費、土盛費などの造成費を十分に計上することで評価を下げました。

地積の大きな土地評価

地積の大きな土地が2か所ありました。

一般の住宅用地としては買い手がつかないほど広い土地は不動産開発業者等が購入し、一般の家庭が購入しやすい広さに区画割をして宅地分譲するケースが多いです。

その場合、購入した土地の中に道路などを作る必要が生じるため、その潰れ地に当たる土地を簡易的に評価し、その金額を財産評価額から減額できます。これを「広大地評価」といいます。

静岡県では1,000㎡を超える土地が広大地の適用を受ける対象になります。

広大地評価をすると評価額は広さにより最大35%まで減額されるので税額に大きく反映します。

広大地を適用するには様々な要件があり該当するかどうかの判断が難しく、税務調査の対象にもなりやすいので慎重な判断が必要です。(平成30年1月1日以降に発生する相続には「広大地」は廃止され、「地積規模の大きな宅地の評価」に変更されています。)

無道路地の評価

無道路地も2か所ありました。

無道路地とは接道義務を満たしていない土地のことです。

道路に面しておらず、隣接する土地を通行しなければ利用できません。

今回は農地のため様々な土地評価の要因に加えて、接道義務を満たす最低限の土地を購入したと仮定し、その購入見込み金額を土地の評価からさらに差し引いて評価しました。

相続財産の評価後は遺産分割協議

相続財産の評価が終了すると「財産目録」として相続人に報告を行い、遺産分割協議に進みます。

この遺産分割協議における遺産分割の仕方次第で納税額が変わりますのでとても重要です。

今回、長女は父名義の土地に夫名義の自宅を建てていたため、その土地を相続しました。

県外に住む二男は過去に住宅取得資金の贈与を受けており、過去に受けたその贈与分のみを取得しました。二人は相続財産にかかる相続税額分の預貯金も相続し、その相続した預貯金で相続税の支払いを済ませてもらうことで合意ができました。

配偶者と長男夫妻の間でどのように遺産を分割するかについては、農地の納税猶予の特例を検討しながら打合せを進めました。農地の納税猶予とは、農地を相続した人が農業を続けることを条件に相続税を猶予・免除する制度です。

同居の長男とは納税猶予候補の農地を一つ一つ確認しました。

ある農地は広さや形、接道も良く、その前面道路が新たな道路につながる都市計画が進んでいます。その計画が進めば接道する通りの交通量は大幅な増加が見込まれます。そのため、この農地は今後の土地活用ができるよう納税猶予から除外しました。

加えて住宅地の中にある場所の良い農地も納税猶予から除外し、現在、配偶者名義で建築中のマンション計画予定地や自宅の一部も合わせて配偶者が取得し、相続税の配偶者控除1億6000万円を最大限活用しました。

その他の農地は同居の長男が農業相続人として相続し、農地の納税猶予を適用しています。

また長男の妻も、ある程度不動産を取得することで、相続財産が長男に偏りすぎないように工夫しました。

このように、土地の評価、配偶者控除、農地の納税猶予の特例を活用することで、何とか銀行から借り入れをすることなく無事納税額の支払いを終えることができ、喜んでいただけました。

相続の先を見通しながら打合せを進めることが大切

相続税申告の際、農地の納税猶予は農家では一般的にみられる方法ですが、申告期限や納税額を抑えようとするあまり、先の見通しを十分に検討しないまま可能な限り納税猶予をしてしまう場合も多いようです。

農地の納税猶予の期間は農地として利用していることを継続的に報告するとともに、20年間は農地以外の利用ができません。

納税猶予した土地を農地から宅地に転用する場合、その土地にかかる相続税額を納付するだけでなく、当初の納付期限から納税猶予を解除するまでの利息、つまり利子税も合わせて支払うことになります。

利子税は民間の借入利率より高く、納税猶予時点から10年も経過していると、その利子税額は納税猶予を解除する土地の本税と変わらないほどの金額になることもあります。

納税猶予を解除したい納税者にこの利子税額を報告すると、ほぼすべての方が納税猶予の解除を取りやめます。残り10年を農地で利用すれば納税猶予は解除され、猶予税額の支払が免除されるからです。

農地の納税猶予に関しては、相続の先を見通しながら検討を進めることが大切だと考えます。

相続税の納付は10か月以内に現金での納付が原則となります。納税額を分割で支払う延納や相続財産そのもので納付する物納という方法もありますが、手続きも煩雑なため物納はあまりおすすめはしておりません。

一度確定した納税金額や納付方法を後から変えることは難しいです。時間をかけて慎重に評価、分割、そして納税方法も検討することをおすすめいたします。


相続に関しましては、やはり事前の対策が大切になると考えます。可能であれば相続税の申告義務が発生してからご相談に来れるのではなく、事前の相続対策の所から来ていただけると、様々な案を一緒に検討できるのでより有効かと思っています。

もちろん、相続が発生してからのご相談であっても、今までの経験・知見を最大限に活用し、今回の事例のようにお客様の懸念事項を解決しながら、相続人全員の幸せを目指した遺産分割協議、相続税申告を心がけております。

何か気になることがありましたらどうぞ気軽にご相談ください。