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夫婦間の資金移動は相続税に影響する?

父が亡くなったので相続の手続きをお願いしたいと相談に来たお客様。
生前、父の預金の管理は母が行っており、複数回にわたり夫婦間の資金移動がありました。
今回は、この資金移動が相続税にどう影響するのかの事例をご紹介します。

相続の概要 ー相続財産の確認と分割方法の検討ー

父が亡くなったので相続の手続きをお願いしたいと相談にみえたのは長男でした。
相続人は母、長男、二男の3人です。

財産はご自宅の不動産と預貯金がありました。
預貯金が多く相続税が発生しそうな状況です。

家族全員と話をしたところ、母にも預貯金が多くあるため二次相続が気になるとのことでした。実際に確認をしてみると、母にも相続税が発生する位の額の預貯金がありました。

今回母が父の財産を相続するとより母の財産が増え、母の相続の際に相続税がさらに増える可能性があります。そのため、父の相続財産は長男と二男で分ける方向で話を進めました。

遺産分割協議は特に問題なく終了しました。
その後、相続税の申告に向けて財産の申告漏れがないように細かな確認を行っていきました。

預貯金は誰が管理していたのか

相続税の申告で申告漏れになることが多いのが預貯金です。
相続税の調査が行われ申告漏れが発覚した財産のうちの約30%が預貯金とも言われています。

木村美都子税理士事務所では、申告漏れを防ぐために相続人の方にお願いをして被相続人の過去5年ほどのすべての預貯金の取引を確認させていただいています。今回も亡くなった父の取引を確認しました。

預貯金の流れを確認していると、過去に長男や二男に対して生前贈与をしていたことや、孫に対して教育資金の贈与もしていたことがわかりました。上記以外に、複数回にわたり現金の出金がありました。現金の場合は、その行方について確認をする必要があります。

ここで重要なのが、誰が被相続人の預貯金を管理していたかという点です。
亡くなった本人が管理していたのであれば、出金があった日付や金額などから何に使われたかを相続人に確認していきます。

相続人が管理していたのであれば、取引内容について直接確認することができます。
またその場合は、通帳の管理が混同されているケースもありますので、被相続人だけでなくその相続人の通帳を確認する必要も出てきます。

今回は母が預貯金を管理していたとのことでしたので直接伺いましたが詳しく覚えてないということでした。それでも長男と二男からは、よく母は自分の口座も一緒にもって金融機関に行っていたと話がありました。母の通帳に入金されていることもあるかもしれません。そのためお願いをして母の通帳も過去5年ほど確認させていただくことにしました。

資金移動の理由を確認

父と母両方の口座取引を確認していくと、父の口座から出金し、同日に母の口座に入金されていることが数回ありました。そしてその逆も同じようにありました。

このことを母に確認しました。このように具体的に質問をすると思い出されることが多いです。

ほとんどが税金や他の生活費の引落しに合わせて残高を調整するために夫婦間で移動していたとのことでした。確かに父の口座から出金後、しばらくして同額が戻されるように入金されていました。この場合は出されたものが戻っているだけですので特に問題ありません。

しかし、父の口座から出金後に母の定期預金が作られているものがありました。この場合は、相続財産に計上すべきかを検討をする必要があります。

母に伺ったところ、定期預金は母の金融機関の担当の方への協力のために作っただけとのことでした。自分のお金を定期預金にすることで自由に使えるお金が減るのは嫌なので、父のお金を原資にしたそうです。

預貯金の名義変更で気を付けること

今回のケースは「名義預金」と呼ばれ、相続税上は母の名義を借りた父の預貯金という判断になります。そのため相続財産に計上する必要があります。

相続人全員に説明をしました。当然母はこれが相続財産になるとは思っておらずびっくりしていました。なぜ相続財産なのかという説明を丁寧にしましたらそれはそうですねと納得をされました。

ポイントは、今誰のものか?ではなく、元は誰のものか?にあります。
それが贈与されているのであれば問題ないのですが、贈与されていないのであれば元の人のものであるという判断になります。

お金の管理を被相続人ではなく、その配偶者が行っている場合は特に注意が必要です。財産を隠そうなどと思って資金移動をしているわけではありません。生活のために通帳間で資金移動することはありますし夫婦ならば普通のことかもしれません。夫婦のお金ですし生活費であり二人のお金という意識が高いと思います。

しかし相続税の申告の場面となりますと注意が必要です。どんな理由で資金移動をしているのか。贈与ではないか。生活費ではないか。名義預金になってはいないか。しっかりと確認が必要です。

一般の方からすると、配偶者の通帳に資金移動したことがまさか相続財産に影響するなどとは思いもよらないことかもしれません。

今回は母の名義になっている定期預金も相続財産に計上しました。母の預貯金が多いのもこのためでした。

相続税の計算は、被相続人の財産に対して税額を計算し、財産を取得した割合でその税額を負担するということになります。相続税も少し増加しますが、配偶者の場合は法定相続分もしくは1億6千万円まで財産を相続しても、配偶者控除という控除があり相続税の納税はありません。そのため心当たりがあればしっかりお話をしていただいたほうが安心です。

相続税の調査で財産を隠して申告をしたと認定された場合は、その隠したと認定された財産に係る相続税は配偶者控除の適用を受けることができません。このように夫婦間のやりとりには特に注意が必要なのです。

さいごに

今回の事例はいかがでしたでしょうか。

普段何気なく行っている夫婦間のお金のやり取りが、相続税の申告では問題になってしまうことがあります。

弊社では相続の申告では必ず預貯金の確認をいたします。もし事前に相続の相談をされていたら、こういったことを早めに確認することができ、正しい状態に戻してあげることもできます。

ご自身やご家族の財産について整理整頓をしてあげることで、残される相続人が安心して相続をすることができるようになります。

早め早めに相続対策を一緒に考え、財産の整理整頓もしてみませんか。
気軽にご相談ください。