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遺言があっても財産を全てもらえない?

残された家族が相続で大変な思いをしないように、生前から相続対策を行っておくことや、遺言を残すことはとても大切なことです。しかしそこには注意点もいくつかあります。今回は事例とともにその注意点についてお伝えします。

相続事例の概要

父が亡くなったと相談に来られたのは長男でした。
亡くなった時のお父様の年齢は99歳で、相続人は長女、二女、三女、長男の4人です。

相続対策として集合住宅を建設している途中にお父様が亡くなってしまい、相続税のことを大変心配している様子でした。

不動産は自宅と貸事務所の土地と建物、集合住宅を建築中の土地、畑と山林をお持ちでした。
金融資産と生命保険契約もありました。

亡くなったお父様はご自身で作成された遺言も残していました。
内容は、自分の遺産はすべて長男に相続させるというものでした。

この内容について、生前お父様は長男にこんな風に伝えていたようです。
三姉妹にはそれぞれ結婚で家を出る際に十分なお金を渡しているし、家を新築する費用なども援助している。そのため、すべて長男に相続させる遺言で問題ない。三姉妹もそのつもりだから安心しろと。

長男からの相談後、お父様の遺言について伝えるために全員で集まる予定を組み、内容の確認と財産の説明を行いました。この時、三姉妹は遺言の内容について特に何も言いませんでした。

遺言の公表後しばらくして、長男のもとに三姉妹より連絡が入りました。
内容は、「遺留分を請求したい」というものでした。

遺留分侵害額請求とは?

この時長男はとても冷静でした。父には遺言があるから安心しろと言われていたものの、遺留分侵害額請求というものがあることを知っていたからです。

長男は末っ子の長男のため、三姉妹には頭が上がりません。こういうこともあるかもしれないと想定をしていました。

遺留分侵害額請求とは、最低限相続できることが保障されている相続分(遺留分)を侵害された法定相続人が、受遺者または受贈者に対して、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求できる権利です。

大ごとにはしたくないため、お互い弁護士を入れることなく話を進めることになりました。長男は、父から三姉妹には結婚や新築の際に援助したことを聞いている、と話をしましたが、そんなことはないと一蹴されてしまいました。

長男には、援助した事実を通帳の履歴などで調べることもできるのではないかと話をしましたが、穏便に済ませたいという気持ちが強く、三姉妹からの遺留分の請求を受け入れることにしました。

幸いにも不動産を売却してまでは遺留分を求めないという話でしたので、残された預貯金の20,000,000円ほどから、三姉妹に5,000,000円ずつを相続するという結果になりました。

その後、三姉妹は法事の案内をしても実家に来ることはありませんでした。大切な親族の関係に溝が生じてしまうことがあるのが、この遺留分侵害額請求の悲しいところでもあります。

遺言は遺産分割の道標としてはとても効果的ですが、なぜそういう分割方法にしたのか、相続する側の思いも同時に伝えないと残された家族にはその思いが伝わらないこともあります。そのため、弊社で遺言作成のお手伝いをする際には付言事項にその思いを記載することをおすすめしております。

建築中に亡くなった場合、建築中の集合住宅の評価は?

建築中の集合住宅の相続上の評価はどうなるのでしょうか。
完成前に亡くなってしまった場合の相続税対策の効果について触れておきます。

わかりやすく費用1億円の集合住宅を建築していたとします。
完成した場合の固定資産税評価額を60,000,000円だと想定します。
集合住宅で貸家となりますので、その評価額は3割減の42,000,000円となります。

評価額が費用の金額から家屋の固定資産税評価額となります。
そこには評価額の差が生まれます。この差が相続税対策の効果となります。

しかし完成前に亡くなった場合は評価方法が変わります。
評価額は、その工事の進捗の「費用原価の7割」の評価額となります。

わかりやすく言うと、費用1億円の工事がほぼ完了しているなかで亡くなった場合70,000,000円の評価までにしかなりません。相続税対策の効果が全くないという状況ではありませんがその効果は減少してしまいます。

今回はほとんど完成しており、もう少し長生きしてくれていれば完成していたという状況でした。評価額が42,000,000円と70,000,000円とでは大きな差があります。

今回、お父様は90歳を過ぎてから相続税対策を行いました。相続税対策をする際は、契約から建築、完成までの時間を考え、早めに決断して行動することが相続税対策上は大切であることがおわかりいただけると思います。

生命保険も契約内容によっては相続財産に

最後に保険についても確認しておきます。

お父様は養老保険の契約が3件ありました。

保険料は一時払いで払い込んでおりました。契約者が父、被保険者が長男、受取人が父となっております。父が亡くなると相続人がその契約を引き継ぎ、満期を迎えると満期金を受け取ることになります。そのため相続財産として考えます。

ここで注意する点がありました。一時払いの養老保険となると、満期を迎えてまた新しい養老保険を契約しているケースがよくあることです。今回は保険契約も多いため、もしかしたら更新の際に相続人名義の養老保険になっているものがあるかもしれないと思い確認をすることとしました。

以前、名義預金のことを記載したことがありますが保険も同様の考え方です。

お父様の保険が満期を迎え、その満期金をもとに相続人名義の保険になっているのなら、実際の保険料負担者はお父様となり、相続財産と認識する必要があります。

長男にも一時払いの養老保険契約がありました。長男に確認したところ、おそらく父の保険契約が満期を迎え、その後更新で自分の名義の保険になったと思うとの話がありました。

念のため保険会社にお父様の過去の生命保険契約の確認を行ったところ、その状況から相続財産に計上すべき保険契約だという認識で長男と一致しました。

まとめ

今回は仮に遺言があったとしても遺留分侵害額請求等あらゆることを想定しておく必要性があるという事例でした。

財産評価においても少し特殊で、建築中の家屋の評価の事例でした。生命保険も保険料負担者は実質誰かによって相続財産か否かが変わるという事例でした。知識として知っておいていただければ幸いです。

相続対策は時間に余裕をもって対策をしていれば慌てることをかなり減らせます。保険契約もどのような契約状態であれば問題ないか、事前にわかり対策をしていればより有利な方法が取れるかもしれません。

木村美都子税理士事務所では、相続税申告書の作成はもちろん、相続のための事前準備のお手伝いもしております。相続シミュレーションや相続税対策へのアドバイス、効果的な遺言作成のアドバイス等もしております。

安心して相続を迎えられるように、財産を残す方も残される方も一緒に準備をしましょう。
どうぞ気軽にご相談ください。