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相続人間の仲があまりよくない場合の相続対策

「相続人同士の関係が良好でなく、いざ相続が発生した時に相手が何を言ってくるかわからない。どうしたら良いでしょうか」、という相談をよく受けます。これから迎える相続に対して大きな不安を抱えていて、解決しないとその不安は何年にも渡って続くこともあります。今回はそのような相談者の方々へ私たちが行うアドバイスの一例をご紹介します。

相続への不安

父が亡くなったと長男が相談にみえました。
相続人は、母と長男、二男、長女です。

財産を確認すると、不動産を多くお持ちで、賃貸マンションを建設し相続対策もされておりました。それでもなお相続税が発生する方でした。

また、その物件を管理するための同族法人もありました。
その同族法人の株も財産です。すべてを父が管理されていました。

賃貸マンションの管理と債務の引継ぎ、同族法人の運営など、検討すべきことはたくさんありました。皆で話し合った結果、二男も長女も家を出ており、家のことについてはすべて長男が引き継ぐことになりました。

無事に遺産分割協議も整い、相続税も納めました。同族法人も長男が引継ぐということで相続手続きは完了しました。しかし検討すべきことはこれで終わりではありませんでした。

亡くなった父の父、つまり祖父が存命でした。
次は祖父の相続について考えておく必要がありました。

ここで祖父の相続関係を確認しておきます。
祖父の子供は3人。長男(相談者の父)、二男、三男でした。
長男が先に亡くなりましたので長男の子3人(相談者を含めた孫たち)が代襲相続人となります。

祖父の財産のうち不動産は孫と同居している自宅の敷地と建物のみでしたが、それ以外に孫にとって気になる財産が2つありました。

1つは同族法人の株です。先に亡くなった長男も所有しておりましたが、8割はまだ祖父が所有しておりました。

もう1つは会社への貸付金です。会社が苦しくなったとき、祖父は自分の預金を法人に貸し付けておりましたので、法人への多額の貸付金がありました。

実は祖父の二男と三男は、先に亡くなった長男と良好な関係ではありませんでした。家を出た二人に対し、家のことに口を出すなという雰囲気があり、家に集まっても会話もしない状況でした。

そのため代襲相続人である孫たちは大きな不安を抱えていました。

争族対策

不安の原因として、考えうる3つリスクがありました。
それぞれ確認してみましょう。

1.遺産分割リスク
祖父の財産は自宅の不動産、同族法人の株と会社への貸付金です。
預貯金もありますが、それほど多くありません。

自宅は孫が同居しております。
同族法人も孫が運営しております。
貸付金も運営している法人が絡みます。

つまり、ほとんどの財産は孫が相続することが望ましいということです。そうなると祖父の二男と三男が相続できるものは少しの預貯金しかなく、法定相続分にも満たない状況です。財産の分割の仕方が極端になってしまい、もめる可能性があります。
 
 
2.同族会社の株式分散リスク
そうなると二男と三男は、相続する財産が法定相続分になるように、株の相続を主張するかも知れません。そうなりますと法人を運営する孫にとって、祖父の二男、三男が会社の主要株主となり、円滑な法人運営に支障をきたすかも知れません。また、株を買い取ってほしいと言われた場合、法人の現金預金が少なくなり、円滑な法人運営に支障をきたすかも知れません。
 
 
3.法人への貸付金の分散リスク
株ではなく法人に対する貸付金の返済を主張するかも知れません。そうなりますと会社は返済していかなければなりません。貸付金を孫が相続した場合、会社は状況に応じて返済の判断をすることができます。しかし祖父の二男と三男は法人の状況を知らないがゆえ、返済が厳しい状況でも応じなければならないケースもでてくるかもしれません。

孫たちは、相続で争いたくはないという強い気持ちがあります。ですが、上記のようなリスクが考えられるため、最悪の場合も想定しておかなければなりませんでした。そのためにはどうするか。

私たちがご検討いただいていることの1つに「公正証書遺言」の作成があります。

遺言はいらない!?

公正証書遺言を作成する今回のメリットとして、
・相続手続きが遺言執行者によってスムーズに行うことができる
・財産の分配が法定相続分ではなく遺留分になる
ことが挙げられます。

特に財産の分配が法定相続分ではなく遺留分になることは大きいです。
遺言の作成がされず、このまま相続を迎えた場合、相続人は法定相続分を主張することができます。

二人より法定相続分の主張がなされた場合、二人で3分の2の財産を相続することになり、上記のようなリスクに対応することが厳しくなります。

しかし遺留分は法定相続分の2分の1のため、二人に3分の1の金銭を支払うことで済みます。金銭を支払う必要はありますが、相続リスクを低く抑えることができます。

そこで、祖父と一緒に話をする時間を設けることにしました。上記のような現状をお伝えし、祖父の相続への想いを聞きながら「公正証書遺言」の作成についても話をしました。

祖父は、自分の子ども達がもめることは絶対にないから遺言は作らないとおっしゃいました。
長男が家を継ぐことは子供の頃から話をしてきた、二男と三男にはそれぞれが家を建てた時にいろいろと援助しているから大丈夫だ、と。

遺言の作成は本人の意思になりますのでこれ以上は難しくなります。
孫たちはがっかりした様子でした。

可能な限りの相続税対策を

ただできることはまだ残っています。
相続税対策です。

同族会社の株を主張されて会社の運営が立ち行かなくなるのは避けたいため、生前に祖父の株を孫に対して贈与しておくことについて提案したところ祖父は同意されました。

贈与税が非課税になるのは年間110万円までです。
その範囲で株を贈与します。

10年繰り返せば1,100万円の財産が減少します。
孫3人に贈与すればさらに減少します。

この相続税対策を行うことで、最終的には相続税が発生しない財産額にすることができます。

相続税対策の贈与を数年行ったところで祖父が亡くなりました。
遺言はありません。

遺産分割はどうなったでしょうか。

葬儀の際には遺産分割の話には触れずにいましたが、財産の説明をするため1度相続人で集まってもらうことにしました。

二男、三男からは、長男が相続税対策で賃貸マンションの建設や多額の借入をし、それを孫(相談者)が受け継ぎがんばってくれているので、今回もすべて相続をしてもらうことで異論はないと話をされました。

二人は家から出てサラリーマンとして生活をしており、本家を継いでいる孫(相談者)に対して感謝の気持ちを持っているようでした。

結果、少し残っている預貯金を二男、三男が相続するが、それ以外のすべては孫(相談者)1人が相続することで話はまとまりました。

二男、三男の言葉を聞いて、孫たちはやっと長年抱えていた不安から解放され、安心することができました。

まとめ

代襲相続人がいる相続は難しいと以前お伝えしました。

今回も代襲相続人のいる相続で、かつ分配が難しい財産構成でした。

さらに相続人の関係が良好でなく(実際には会話の機会が無かっただけかもしれません)、最大の相続対策となる遺言の作成にも応じていただけなかったため、残される相続人の心理的負担はかなり大きなものでありました。

今回は結果的に遺言がなくても円満に相続が終了しましたが、このようなケースは稀です。
早めに相談に来ていただけたおかげで、その時にできる最善策を実行できたことが少なからず良い結果に繋がりました。

「私の相続は絶対大丈夫だ!」とおっしゃっていた方の相続で、相続人がもめたケースを何回も見ております。少しでも不安を感じることがあればぜひ一度相談にいらしてください。

当事務所では、ご相談者の気持ちに寄り添った相続のお手伝いをしておりますので安心してお問合せください。