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財産?想い? 相続の本質とは?

相続税申告の相談でお客様が来社されました。特に問題もなく進んでいたのですが、遺産分割の際に相続人の間で少し意見が異なることがありました。幸い仲が良い家族でしたので大きなもめ事にはなりませんでしたが、遺言があればもっとスムーズに相続が進んだかなと思われた事例を今回はご紹介します。

家族それぞれの事情について

父が亡くなったと相談に来られたのは長女でした。
お母様はご健在でしたが、ご高齢のため相続のことは長女に任せている様子でした。

いつものように、相続人と財産の確認から始めました。

相続人は、お母様、長男、長女(相談者)、長女の夫(養子)、二女の合計5人。

不動産は自宅、貸家(現在は長男が住んでいる)、古いアパート、の三か所です。
このように不動産もありましたが、現預金もありましたので、相続税の納税資金の心配はありませんでした。

遺産分割協議が整えば問題なく相続の手続きも終わるという状況でしたので、その日程を長女に相談しました。その際、先に遺産分割の案について話を聞いてほしいと相談がありました。

長女からの相談は、すべての財産は長女と次女で相続したいという内容でした。
次女は長女が財産のほとんどを相続すればいいと思っているとの話もありました。

このように話をするのには理由がありました。

長男は現在、お父様が以前人に貸していた貸家が空いていたためそこに住んでいます。
長男は結婚をして家を出て生活をしておりましたが、離婚して戻ってきました。

実家に戻らず空いた貸家に住んでいるのは、結婚で家を出ていく際に「家のことは継がない。だから財産もいらないし自分のしたいようにさせてほしい」と話をしたからでした。

そのため実家には戻れない状況でした。
その様子を見てお父様が空いている貸家で生活するように話をしたとのことです。

長女としては長男自身が「財産もいらない」と言い結婚して家を出ていったので、長男には財産は相続させたくないという気持ちがあるようでした。

理由はそれだけではなく、長女ご自身の結婚にもありました。

長男が家には戻らないと言って結婚したが戻ってきて、子供もいないのでこのまま一人でいると父と話をしていたようです。そのため、長女が結婚をする際に現在の夫に養子縁組で婿にきてもらえないかと話をしたそうです。

お父様は相手の両親に頭を下げてまで婿に来てもらったという経緯がありました。
さらに、家のことは長女家族に任せるということに家族全員で決めたことにもなっているとのことでした。

そのため、長男に対して遺産分割の場で長女とその夫から話をしたいという相談内容でした。

資料を整え、遺産分割協議の日を迎えることにしました。

遺産分割と法定相続分

長男は父の財産をどのように相続するかを話し合うのだと思って参加されました。
しかし、長女から一切相続をしないと約束をして結婚して出て行ったので何も相続しないでほしい、と話を切り出されとても驚かれていました。

そして長女の夫も、長男が相続しないから家を継いでもらいたいということで婿養子になったことを話されました。

長男はその話をもちろん覚えていましたが、まさかこのような展開になるとは思っていない様子でした。そのため、自分にも法定相続分を相続する権利がある、たしかに自分が何も相続しないとは言ったが、本当に何も相続できないというのでは困ると話をされました。

相続の場では、どれだけ長男が「相続しない」と口頭で言った過去があったとしても、それでは実際の効力は持ちません。そのため法定相続分を主張されると、話し合いで解決するか裁判所で遺産分割調停ということになってしまいます。

亡くなったお父様は遺言を作成していませんでしたが、仮に遺言を作成し長男には相続をしない旨が書かれていたとしても長男には遺留分があります。遺留分とは民法に定められており、法定相続人に対して最低保証される相続分のことです。

今回の場合、長男の遺留分は財産の16分の1となりますので、もし遺言があれば、すべて長女、次女で相続できなくても、長男に相続させる割合を低くすることはできました。

ただ、お父様は遺言まで作らなくても問題ないと話をされていたようです。
しかし、口頭の会話だけを頼りに遺産分割をするのはやはり仲が悪くない家族であっても難しいのが現状です。

お父様が事前に相続相談に来ていただけていれば遺言の必要性を話し、このような状況を防げたかもしれません。

長女の夫にしてみれば、円満に家を継ぐために婿養子になったにもかかわらず、その相続でもめることになってしまうのは想定外で、それはとても心苦しいことになってしまいます。

家を継ぐということ

長女はこのような展開になることもある程度は想定しておりました。
そのため別の案も考えておりました。

長男に対しては伝えるべきことは伝えて、事の重大さをわかってもらいたいという気持ちが強くありました。

また、家を継ぐということはすべての財産を相続するということではなく、長女夫婦にとっては自宅をお母様と一緒に守っていくこと、と考えているようでした。

長女の夫も仕事をしており収入もあるため十分に生活ができます。
長男が住んでいる貸家や古いアパートがなくても問題はないわけです。

ですので、別の案として、自宅は長女夫婦、長男が住んでいる貸家と古いアパートは長男が相続して管理すること、現預金は母が多く相続し、一部を子で相続するという内容を考えていました。

その案を聞いた長男は、自分が家のことを考えず好きに生活してきたことを反省し、婿で来てもらった長女の夫とも話をしてくださいました。

結果、自分の住んでいる借家とアパートはしっかり管理していくことを約束され、無事に遺産分割協議は成立しました。

相続の本質とは何かを長女がしっかりと考えてくださった結果、長男も大切なことは何なのかに気づくことができ、円満な遺産分割協議となったのだと思っています。

長男がこのまま再婚せずに亡くなった場合の相続人はお母様、お母様が亡くなった後に相続が発生した場合は兄弟姉妹となります。いずれ財産は家を継ぐ長女に行くことになるかもしれません。

今回は兄弟姉妹、長女の夫、家族全員の関係が良好でしたので、話し合いで遺産分割が整いました。また、長女が財産を相続することが目的ではなく、お母様と自宅を守っていくことを主眼に置かれていたことが良い結果に繋がったのだと思われます。

中には財産が全てという相続人もいらっしゃって1円でも多く自分に財産をと主張される方もいます。そういう場合はなかなか話し合いがまとまらず、調停になったりと長い時間がかかることが多いです。

そうならないためにも、相続については早いうちから対策を考えておくことを推奨しております。
 
 
木村美都子税理士事務所では、相続で考えられるリスク、そのリスクを軽減するための対策、家族皆が幸せになるための分割案などを、相続税額をシミュレーションしながらお客様と一緒に考えていきます。

相続のことで少しでも気になることがありましたら、ぜひ早めにご相談ください。
相続の相談に関しましては、どんなに早くても早すぎるということはありませんので気軽にご相談ください。